ノイズ除去とは何か

 画像処理におけるノイズ除去について考察する.

 例えば,平均ゼロ,分散σの白色雑音(ガウスノイズ)が含まれているときに,これを除去すること.単純にはローパスフィルタをかけると見た目が良くなる.しかし,高周波成分が欠落するため,エッジが甘くなり,テクスチャが滑らかになってしまう.POCS(Projection On Convex Sets)を用いたノイズ除去(画像復元)は,高い性能を持つとされるが,PSNRでローパスフィルタ法と比較すると劇的に良くなるわけではない.Wavelet Shrinkageを用いたノイズ除去も手法が単純な割に,かなり性能がよい.

 Wavelet Shrinkageを用いたノイズ除去では,冗長でシフト不変性を有するウェーブレットを用いて多重解像度解析を行い,エネルギーの小さな係数をゼロにしてしまうということだと思う.

 ここで重要なのは係数がSparse,すなわち粗であると言うこと.画像というのは本来,少数のウェーブレット係数で再構成可能である,という思想が背後にあることになる(これは私が主張しているのではなく,そうでなければ手法として成り立たないという事実に基づく推測である).

 一方,白色雑音は周波数解析で言えば全帯域を含んでおり,それぞれのエネルギーは基本的に小さい.そこで,ウェーブレット係数のエネルギーが小さいところは白色雑音に相当していると言うことになる.これをゼロにしてしまうのは雑音の一部を除去していると思う.

 信号成分に重畳されているノイズはどうなるのかというと,どうにもならないのであろう.先見情報なしに有意な信号をいじると訳がわからなくなるので,ノイズが重畳されていようがいまいが,さわらない方が良いと思う.

 ここで私が疑問に思うのは,画像は少数のウェーブレット係数で再構成可能なのか?ということである.言い換えれば,少数のウェーブレット基底を組み合わせれば画像が構成できてしまうということである.

 画像には本質的に不連続部分が含まれているにも関わらず,知覚(視覚,認識)されるまでにローパスフィルタが適用され,完全な不連続は存在しないという,やっかいな代物である.これを比較的(画像の不連続に比べて)滑らかな基底に分解することに違和感がある.

 話が脱線しまくっているが,ノイズ除去が可能である背景には,画像が少数の有意な基底から構成されており,雑音はエネルギーの小さい係数に分散してしまうので,これをゼロにすれば良い,という思想があるらしい.

 ついでに,雑音がないと仮定した参照画像にも,このモデルに当てはまらない成分が含まれているはずである.これは一般的にはモデル化ノイズという呼ぶらしい.モデル化ノイズを除去した画像を参照画像としなければ,PSNRで比較してもあまり意味がないように思う.これに言及している研究が私の知る限る全くないのである.不思議である(ただ,知らないだけかもしれない.こんなことをしてしまうと,他のモデルとの比較が出来なくなってしまうので,当然と言えば当然である).